NASAの有人月探査計画「アルテミス」で、当初アポロ計画以来となる有人月面着陸を担うはずだった「アルテミス3」が、月には降りないミッションに変更された。発表は2026年2月27日、NASA長官のジャレッド・アイザックマン氏によるもので、最初の有人月面着陸はその次のミッション「アルテミス4」(2028年予定)に持ち越されることになった。
何が変わったのか
もともとのアルテミス3は、宇宙飛行士を月面、特に水の氷が眠っているとされる月の南極域に着陸させる計画だった。実現すれば、アポロ17号以来、約半世紀ぶりとなる有人月面探査になるはずだった。
新しい計画では、月面着陸そのものを行わない。代わりにオリオン宇宙船を地球周回軌道に投入し、民間企業が開発中の月着陸船――スペースXの「スターシップHLS」、ブルーオリジンの「ブルームーン」――のうち一方、あるいは両方とランデブー・ドッキングする試験飛行に切り替えられた。この軌道上テストでは、着陸船の推進系や生命維持装置、通信系の統合動作の確認に加え、月面で使う新しい船外活動用スーツ「AxEMU」(アクシオム社開発)のテストも行われる予定だ。
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なぜ月面着陸を見送ったのか
背景にあるのは、月着陸船の開発の遅れだ。NASAの航空宇宙安全諮問委員会(ASAP)は、このミッションに「ミッションレベルの重大なリスクがある」と指摘していた。
スペースXのスターシップは試験飛行を重ねているものの、軌道上での極低温推進剤の長期保管・補給、オリオンとのドッキング、無人での月面着陸と再上昇といった、月着陸に欠かせない技術をまだすべて実証していない。ブルーオリジンの「ブルームーン」も、試験機「Mark 1」がジョンソン宇宙センターでテスト中の段階だった。
アイザックマン氏は、いきなり月を目指すのではなく段階を踏んで安全性を高める必要があると説明し、アポロ計画でもマーキュリー、ジェミニという段階を経て月着陸に至った経緯を引き合いに出している。
計画自体が止まったわけではない
ここで誤解しないほうがいいのは、これは「アルテミス計画そのものの中止」ではないという点だ。月面着陸が見送られたのはアルテミス3だけで、最初の有人月面着陸という目標自体は、アルテミス4に持ち越された形で残っている。
実際、この発表のあと、アルテミス2は計画どおり2026年4月に打ち上げられ、4人の宇宙飛行士を乗せたオリオン宇宙船による月周回飛行を成功させている。
一方で、月を周回する有人拠点「ゲートウェイ」の建設は2026年3月に停止が発表された。NASAは今後、ゲートウェイ前提の計画から離れ、月面基地の段階的な建設に重点を移す方針を示している。また、これまで3年に1回程度だったSLSロケットの打ち上げ頻度を、設計の標準化によって10か月おきほどまで引き上げることも目標として掲げられた。
つまり
人類が再びアポロ以来の月面着陸を果たすタイミングは、当初予定されていたアルテミス3から、1ミッション分先のアルテミス4(2028年予定)へとずれ込んだ、というのが今回の変更の実態だ。計画そのものが終わったわけではなく、開発が追いついていない部分を地球周回軌道でじっくり確認してから月へ向かう、という段階的なアプローチへの方針転換と見るのが正確だろう。


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